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学戦:天羽爽さん ①

遠くで鳶の鳴く声が聞こえる。風に色がついて見える。
馬の背の熱、少し汗ばんだ肌で感じる空気が気持ちいい。
きっと帰ったら教官に呆れの混じった声で説教されるのだろうが、そんなことは対して気にならない程度には彼はこういった状況に慣れていた。

絶賛講義を抜け出して遠乗りをしている彼は斗星昴という。学生であり、いままさに行われている学生戦争における駒の1つであり、黒軍の騎馬兵団に所属している青年だ。学生らしく本分は勉学とでもいうのか、昼時間は講義と調練に充てられているが内容は戦略に関するものが主だ。戦略やら作戦やら考えるのは頭のいい奴らがやればいい。前線に立って戦場を駆け回る自分にはある程度以上の講義は不要と昴は考えていて、その考えを言い訳として好きなだけ乗馬に勤しんでいた。
「今日は結構遠くまで出かけたからホサキも疲れただろ。帰ったらいっぱいブラッシングしような。」
愛馬に語り掛け、馬もまた応えるように短く嘶いたのち彼らは加速し帰路を急いだ。

厩舎も近づき、名残惜しさもありゆっくりと歩いていた所どこからか視線を感じた。敵意のある視線ではない、この時間であれば早くに講義を終えた生徒であれば居てもおかしくはないのだが…。なかなか外れない視線の元を探して辺りを見回してみた。
「おっ、見っけ。あれは…同期か?えらくちっさく見えるけど。」
探してみれば案外見つかるのは早かった。小柄な女生徒が木戸の影からこちらを伺っているようだ。目を負傷しているようだがここではよくあることだ、遠くが見にくいと不便だろうなと心の中でひとりごちた。
探していれば当然こちらを伺う彼女とも目が合う。一瞬驚いたようだったが、馬上からだったからか小さいと思っている心情がもれたのか定かではないが睨み返してきた。なかなか負けず嫌いの性格なようだ。それにしてもあの顔、舌打ちでもしていそうだな。あ、絶対いま舌打ちした。

個人的な考えだが、感情が顔に出るヤツは信用できると思う。何考えてるんだか分からないヤツを信用するには時間もかかるし時間をかけてるうちに相手がこの世に居なくなってたり、なんてよくあることだ。
だからあの女は信用できそうだと思う。俺には分かる。あの顔はホサキに乗りたくて俺に妬いてるに違いない。まったく罪作りな愛馬だとひと撫でする。見たところ香水やらつけていそうではないし女の子同士仲良くできるかもしれない。あんまり仲良くなったら妬いちゃうけど、なんて考えながら一歩また一歩と近づく。

(多少は緊張するな、馬上からは失礼だよな、でも仲間なんだし丁寧な口調なんて無理だしなんて声掛けよう、最初が肝心だよな、授業サボってることばれて怒られたら面倒だな…)
「おいそこのちっこいの!。そんなに羨ましそうに睨まれると困るんだけど何か用か?」
呼びかけると反応はあった。先ほどより眼光が鋭くなり突き刺すようなものになったが何か悪いことを言っただろうか。物陰から「ちっこいの」が姿を見せた。やはり黒軍の一般生徒のようだが見覚えがない。まぁ入学後まもなくして授業を受けることも少なくなっているので知らなくてもおかしくないかもしれない。

「俺は斗星、彼女は穂嵜。この馬に乗りたいのか?」
敵ではないのだし取り合えず名乗っておく。穂嵜も「ブルルルッ」と鼻であいさつする。なんて礼儀正しい子なんだ!
「…あたしは天羽。別に乗りたかったわけじゃないし、ただ見てただけだし、てか小さくないし…。失礼なあんたに一言言いたくて出てきただけなんだから!小さいっていったの取消しなさい!」
「俺別に小さいなんて言ってないじゃん。ちっこいっつっただけだし、嘘はいけないって先生に教わっただろ?」
小さい女の子の怒りは加速しているようだ。こんな挑発にのるような性格ならまず安心して大丈夫だろう。それにしてもからかい甲斐のある女の子だ。なんだか話してるのが楽しくなってきた。

「同じでしょ!!まったく、初対面の女性に対して失礼なんじゃないの?というか講義が終わった学年なんて他になかったはずだけどあんた学年は?同期?もし先輩だったら幻滅してやるんだから。」
「じゃあ幻滅されなくて済んだかな、俺は1年だ。1年の講義ってもう終わったのか?」
「…あっきれた。1年でもうサボってるヤツがいるなんて。二年は実技で早めに終わっただけで他の学年はまだ講義の最中なんだから。あんたなんていま戻って先生に怒られるといいわ。」
「えっ…そんなちっこ、いやえっと先輩なんだ。これは失礼しちゃったなぁははは…。乗ります?」
彼にとって歳は対して敬意の対象にはならないが、ここに置いては経験の差と同義だと考えている。どんな形であれ1年多く生き延びている、それだけで態度を正す理由にはなった。ただし敬意の払い方なんて分からないから適当だが。
「いまさら改まったってどうもしないんだからね。いいよ、サボってたことは告げ口しないで1つ貸しにしておいてあげる。今度何かあったらその貸しを返してもらうから。」

そのしゅ瞬間の自分の顔は分からないが、嫌な顔をしていたと思う。いま怒られて済むならどれだけ良かったか分からない。そもそも先の約束をするのは苦手なのだ。今度っていつだ、返せなかったらどうする、宙に浮いた貸しはどうする、そんな考えがここに来てからずっとある。そんな彼の顔を見て数秒、意を解したように
「大丈夫、すぐにでも返してもらうから心配しないで。あたしのいる雑務部はやることいっーぱいあるんだから。後輩は、先輩の言うことを聞くものでしょ?」
といたずらっぽく彼女が笑う。その言葉と笑顔で、彼女もまた失う恐さを知っているのだと感じて少し安心した。しかし…この貸しは高くつきそうだ。

抵抗を諦め、やれやれといった表情で返事をする。
「わかったよ、小さいセンパイ。」
「ブルルルッ」
もう飽きたとばかりに馬が鼻を鳴らす。
「あぁ、帰ったらブラッシングの約束をしてたんだった。悪い悪い。すぐに取り掛かるからな。ところでえっとセンパイはなんで睨み付けてきたんだ?」
顔を上げるとなかなかに怒っている顔があった。しまった、また小さいって言ってしまった。
「あんたがその呼び方を直さない限り教えないんだから!!」
厩舎の馬がみな振り向くくらい大きな怒号を放ち彼女は去っていった。一体此処に来たのは何の用だったんだ…。痛む耳を押さえながら昴は愛馬と目を見合わせる。
妙な縁が出来てしまった。一年目の上半期にしてこんな出会いをするとは、これからの学校生活は前途多難かな、との思いから吐き出された溜息は夕焼けの空へ吸い込まれていった。
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